Masuk――思い出した。
昨日帰ったとき、この子たち拾ったんだったわ。 ……酔っていたから、なんか勢いで。「ここに置いてください」という言葉を聞いて驚きのあまり頭が働き、波瑠は昨夜の自分の行動を蘇らせることが出来た。
「にゃー」とまた猫が鳴いた。 波瑠はこめかみを抑えながら、彼らを見る。 ……しかし、ほんとうにきれいな顔。 そして、きれいな顔の彼は不安気な顔をしていた。 「あの……」 「あ、うん、今、思い出した。そう言えば、うちの前で拾ったのよね、昨日」 「はい」 「それで、ここに置いて欲しいっていうのは? どういうこと?」 「……僕、行く場所がなくて。こんなふうにぐっすり眠れたのも久しぶりで。僕、しばらく眠ることが出来なかったので、動けなくなってしまっていたんです。夜は寝てもすぐに目が覚めるんですけど、昨日はぐっすりと眠れて。……だから、おかしなお願いだとは分かっているんですけど、ここに置いてくれないかと思ったんです。突然変なこと言ってごめんなさい」 「……あなた、未成年よね? 私、犯罪者になりたくないけど」 既に今でも危ない、と波瑠は昨夜の自分を呪いたくなった。 「いいえ。僕、成人しています」 「え? いくつなの?」 「十九歳です。大学一年生です」 「嘘! てっきり高校生だと思ったわ!」 「違いますよ。大学生です。――これ、学生証です」 そういうと彼は学生証を波瑠に見せた。そこには、県内の国公立大学の名前と「波瑠は顔写真と目の前の人間の顔を見比べた。
うん、確かに同一人物ね。もっとも、現実の方がきれいな顔しているけれど。 「ねえ、えーと、羽田くん。こんな立派な大学に行っている人が、どうして帰る場所がないの?」 「……家にはちょっといられなくなってしまって……」 彼――羽田千颯はそう言うと、目を伏せ、長い睫毛が影を作った。手はきつく握りしめられている。 誰でも知っている国公立大学に行っていて、これほどの美しい容貌で。 羨ましいと思う人間は多いだろう。 だけど、彼は帰る場所がないと言う。 波瑠の脳裏に、自分の家族の姿が「……ねえ、羽田くん」
「千颯、でいいです。――名字は好きじゃなくて」 「うん、分かった。じゃ、千颯くん」 「はい」 「私は、波瑠はふらふらと浴室に行き、服を脱いだ。
見知らぬ男がいるというのに、なぜか警戒心は湧かなかった。 ……あの子には、誰かを襲うとか危害を加えるとか、そういうパワーはなさそうに見える。……というか、彼自身がとても傷ついているように見える。 波瑠は化粧を落とさずに寝てしまった顔を見て、ひどい顔をしている! と、きれいな顔の千颯を思い出し、とても恥ずかしくなった。 シャワーを浴びてさっぱりとして、先ほどの部屋に戻り布団を敷き、バスタオルを千颯に渡しシャワーを浴びるように言った。 「じゃあ、私、寝てきます。千颯くんも寝てね」 「はい」 なんだかよく分からないことになってしまったけれど、とりあえず寝てしまおう、と波瑠は思った。「あ、その前に」
波瑠は猫の簡易トイレを作り、とてとて歩いている猫に「ここでトイレするのよ」と言った。それから「うち、食べるもの、あまりないけれど、食べるかな?」とにぼしとお水をあげた。猫は不思議そうな顔をしながらも、煮干しをぱりぱりと食べ始めた。 「よかった、食べられるのね」 猫の頭を撫でると、やわらかくあたたかだった。 「ねえ、この子、名前なんていうの?」 「まだ決まっていません」 「名前、つけていい?」 「いいですよ」 「えーとね、キャンディ!」 「……由来は?」 「んーと、かわいいから?」 波瑠がそう言うと、千颯は笑った。緊張していた顔が崩れて笑った顔は、きれい、というよりもとてもかわいい、と波瑠は思った。波瑠が目を覚ますと、台所で何か音がしていた。ごはんを炊く音が聞こえたような気がする。今日の朝ごはんは何かな? と期待して、波瑠は布団の中で千颯が起こしに来るのを待っていた。 今日は千颯くんと水族館に行くんだ! と思うと、自然に頬が緩んだ。 楽しみだなあ。どの服を着て行こうかな。 ……昨日は、お母さんたちに会って、ほんとうに驚いたし、緊張した。真珠も琥珀も、私のことを慕ってくれていることも分かっている。だけど、実家に行くのは緊張するし、嫌なことを思い出すからつらい気持ちになってしまう。 ――でも。 今度実家に行くときは千颯くんと一緒に行けばいいんだ、と思うと、なんだかほっとする。それに、彼氏だって思われても嫌じゃないって言ってたし。昨日も今日もデートだし!「ふふ」 布団の中で、一人で思い出し笑いをしていると、「波瑠さん、ごはんですよ」という千颯の声がした。「はーい! 今行くね」 波瑠はベッドからするりと下りて襖を開いた。「おはよう、千颯くん」「おはようございます、波瑠さん。今日もいいお天気ですよ」「お出かけ日和ね!」 寝間着のまま台所へ向かうと、朝食が既に用意されていた。 ロールパンに、ゆで卵をマヨネーズで和えたのと、ハムときゅうりが挟まっていた。それから、キャベツのコールスローサラダ。ミルクコーヒーも準備されている。「おいしそう!」「さあ、食べましょう」「いただきます!」 波瑠はロールパンを一口食べた。ゆで卵の味とハムの塩味が、ロールパンのほのかな甘味と合わさって、日曜日の朝のお腹に染み込んだ。「おいしい!」「よかったです」「あ、でもね、朝、ごはんを炊く音がしたんだ。ごはんの炊けるにおいもしたんだよ。だから、今朝はパンじゃなくてごはんだと思っていたの」「あ、それは――内緒です」「内緒なの?」「……まあ、あまり内緒になっていませんが」 千颯の視線の先
「ねえ、あんまりお腹空いていないの」 家に着くと、波瑠はとても残念そうに言った。「そうですね。とんかつは結構ボリュームありましたし、あの後、甘い飲み物も飲みましたしね」 千颯はくすりと笑いながら言う。「うう。晩ごはん……!」「今日は食べるの、やめますか?」「いや、それは! 千颯くんのごはん、食べたいよぅ」 波瑠は、実家に一緒に行って欲しいと言ったときと同じ顔で千颯に甘えるように言った。それが嬉しくて、千颯はからかうように言う。「でも、お腹いっぱいなんですよね?」「ううん、ちょっとだけ食べれる感じ?」「……雑炊にしましょうか?」「ごはんちょっとで、野菜いっぱいだといいな」「今すぐ食べますか?」「うん、今ちょっとだけ食べたい」「じゃあ、今から作りますね」 千颯が台所に行くと、「にゃー」とキャンディがすり寄って来た。「あ、キャンディにかりかりあげるの、忘れていた。ごめんね」「にゃっ」 ふわふわの白と薄茶の毛並みの温もり。 キャンディに初めて会ったときの心細さを、千颯は思い出す。 あのとき、金茶の目が千颯をじっと見て、思わず抱き上げた。ウィンドブレーカーの内側に入れたら、あたたかくて。……キャンディと出会えてよかった。もし、あそこでキャンディと出会っていなかったら、僕は波瑠さんちに辿り着けていなかったかもしれない。「キャンディ、おいしい?」 千颯はそんなことを考えながら、懸命にかりかりを食べているキャンディの頭を撫でた。 それから、冷凍してあったごはんと、鳥ガラスープの素、水菜とえのき茸と卵で、簡単な雑炊を作った。「千颯くん、おいしい! 熱いけど」「火傷しないようにしてくださいね」「うん、大丈夫」 波瑠さんと一緒に食べるごはんはどうしてこんなに幸福なのだろう? 波瑠と一緒に住むようになって、千颯は、自分がこれまでどれほ
聖羅に会うことを心配していた千颯だったが、ばったり会ったのは、波瑠の家族だった。「波瑠、久しぶりね」「お久しぶりです」「元気だった? ちっとも来ないから」「元気です」「……そちらは?」 波瑠の母親は千颯に視線を向けて、そう言った。「あ、うん。今、一緒に住んでいるの」「え? ……そうなの」 波瑠の母親も驚いたようだったが、千颯はもっと驚いた。 ……その言い方だと、きっと彼氏だと思われてしまう。波瑠さんはどうして適当な嘘を言わなかったのだろう? いくらでも嘘が言えたのに。「お母さんも、お父さんも。それから、真珠も琥珀も元気?」「元気よ。変わりはないわ」 と波瑠の母親が言い、父親は頷き、高校生くらいの女の子の方が「今度高三になるんだよ、お姉ちゃん。琥珀は今度高二だよ」と言った。「二人とも、勉強頑張るのよ」「ねえ、お姉ちゃん、またうちに来てよ。真珠、話したいことがあるんだよ」「今度ね」「約束だよ。琥珀だって、お姉ちゃんに会いたいって思ってるよ!」 琥珀は真珠の横で少し照れくさそうにしていたけれど、波瑠に会えて嬉しそうなのが、千颯にも感じられた。「うん、分かったわ」 波瑠はそう言ってにっこりすると、またいくつかの会話を重ねた。そしてその後、「じゃあ、またね」と手を振った。「お姉ちゃん、またね!」 という真珠の声がよく響いていた。 波瑠の家族が視界から消えたと思ったら、波瑠が千颯の手を握った。「……波瑠さん?」「――緊張した……!」「波瑠さんの、お父さんとお母さんときょうだい?」「そうなの。……私、中学生になったときから、今の家でおばあちゃんと暮らしていたから、一緒に暮らした記憶が遠すぎて。……緊張しちゃうんだよね」「そうなんですね」 千颯は、波瑠が以前に「あの家には私の居場所はない」と言っていたことを、悲しく思い出していた。波瑠さんが家を出た理由は何だろう? ――いつか波瑠さんが自分から話してくれるまで待とう。「真珠も琥珀も大きくなったなあ。びっくりしちゃった。……何年も会っていなかったから」「またうちに来てよって、言っていましたね」「う~~~~行きたくない
本屋を見て服屋を見て。 その他、気になるお店を二人は見て回った。そして映画館のある階に着いたとき、波瑠は言った。「ねえ、千颯くん、映画観ない?」 千颯は、すぐに「いいですよ」と答えることが出来なかった。「あの……」「ん? 観たいの、ない?」「……そうじゃなくて、僕、暗いところが怖いんです」 千颯は思い切ってそう言った。波瑠は千颯の次の言葉を待って、千颯の顔を見て黙っていた。「……継母が夜中に僕のことを触っていて気持ち悪かった、と話したと思うんです」「うん」「頰を触られただけだけど、気持ち悪くて。僕、それ以来、夜眠るときはベッドをドアの前まで移動させて寝ていたんです。――入れないように。だけど、夜、ドアノブが、がちゃがちゃってすることがあって――だから、暗いところは……」 暗がりにいると、あの光景を思い出してしまう。 恐怖心と一緒に。 千颯が言葉を詰まらせると、波瑠は千颯の手を両手でそっと包み込むようにして、言った。「ごめんね、千颯くん、つらいことを言わせてしまって。……大丈夫よ、分かったから。映画はね、おうちで観ましょう」 波瑠は千颯の顔をまっすぐに見て、にこりと笑った。「波瑠さん」「暗いところはやめて、ごはん食べに行こう?」「……はい!」 二人は自然に手をつないで歩き出した。 波瑠の手から、あたたかい気持ちまで伝わってくるようだ、と千颯は思った。「ねえ、千颯くん。もしかして雨戸を立てずに眠ることが多いのも、そのせい?」「……ごめんなさい。雨戸を立てると、真っ暗になってしまって……怖くて。電気を点けたままだと、なかなか眠れなくて。でも、自然の月明かりならぐっすり眠れるんです」「じゃあね、これからは悪天候じゃない限り、雨戸は開けた
千颯はごはんを作るとき、いつも波瑠の顔を思い浮かべていた。 波瑠さんはどんな顔をするだろう? 喜んでくれるかな? 好き嫌いのない波瑠は、だいたい何を作っても嬉しそうな顔で「おいしそう!」と言ってくれるのだけど。そして、ほんとうにおいしそうに食べてくれる。 三月に入った土曜日、千颯は今日の朝ごはんは何しにようかなと考えていた。 最近、週末はのんびり朝ごはんを食べて、二人でゆっくりとコーヒーや紅茶を飲むことが多かった。その時間はとても穏やかないい時間だった。 買ってから少し時間が経ってしまった食パンが目について、千颯は、一瞬焼こうかと思ったけれど、ふとフレンチトーストにすることを思いついた。フレンチトーストを作るのは初めてだった。 波瑠さん、喜んでくれるかな。 ボウルに卵と牛乳と砂糖を入れて、よく混ぜる。それからそこに、四つに切った食パンを浸す。熱したフライパンにバターを入れて溶かし、そこに卵液に浸した食パンを手早く入れていく。残った卵液をパンの上にかけて、一緒に焼く。 焼き色がついたらひっくり返し、裏面も焼く。 あっという間に出来る、お手軽なフレンチトースト。 サラダを盛りつけ、フレンチトーストを乗せ、コーヒーメーカーをセットする。 それから千颯は波瑠を起こしに行った。 襖越しに声をかける。「波瑠さん、ごはんですよ」「はーい! おはよう、千颯くん!」 襖ががらっと開いて、波瑠が元気よく出て来た。 波瑠さんは、起きているけど、僕が呼びに来るのを待っているときがある、と千颯は思う。それは甘やかな思いだった。「おはようございます」「おはよう。ねね、今日の朝ごはんは何?」「フレンチトーストです」「フレンチトースト! きゃー、初めてね。楽しみ」 波瑠はスキップをする勢いで食卓へと向かう。波瑠の後ろから台所へ向かった千颯は、「おいしそう!」という波瑠の声を聞き、満足する。「千颯くん、私、フレンチトースト、好き」「波瑠さんは好きなものが多いですね。これ、
遅い時間に朝ごはんを食べたので、二人ともお昼ごはんの時間にはお腹が空かず、お昼ごはんは抜いて早めの晩ごはんを食べることにした。「ねえ、晩ごはんは何?」「鍋にしようと思っています」「鍋! いいわねえ。ポン酢で食べるやつ?」「そう、ポン酢で食べるやつです」「きのこ、入れて欲しいな」「入れますよ。鶏団子を入れます」「鶏団子! あのね、鶏肉に生姜も入れて丸めて欲しいな」「鶏団子に生姜入れますよ。あと長葱も」「きゃーん、おいしそう! あのね、鍋には水菜入れるんだよね? お買い物で買ったから」「そうですよ」「楽しみ!」「すぐ出来ますから、波瑠さんはのんびり待っていてください」「わたし、シーツとかお布団とか、お片付けして待ってるね。それから、こたつで食べたいな、鍋!」「居間で?」「そう、居間で、こたつに入りながら」「いいですねえ」「あのね、卓上のクッキングヒーターがあるのよ。そういうの、準備しておくね!」 千颯が嬉しそうに笑ったので、波瑠も嬉しくなった。 波瑠はシーツや布団を片づけ、それから掃除機をかけた。猫がいるので、こまめに掃除をしなくてはいけない。「にゃー」 キャンディは掃除機をかける波瑠にまとわりついてきて、とてもかわいかった。「ふふ」 掃除機をかけおわると、波瑠は少しキャンディと遊んでから、卓上のクッキングヒーターを出してこたつの上に乗せた。 取り皿やお箸を用意しようと台所に行く。「波瑠さん、鍋出来ましたよ」「ちょうどいいわ! 私も片づけ終わって、クッキングヒーターも出したの」 こたつの上に置いたクッキングヒーターに土鍋を乗せる。 千颯が土鍋の蓋を取ると、ふわっと蒸気が立ち昇った。「いいにおい!」 鍋はくつくつ煮えていて、鶏団子と葱と水菜が入っていた。波瑠が好きな、椎茸とえのき茸も入っていたし、ごぼうのささがきや焼き豆腐も入っていて、湯気を立てていた。「おいしそう!」「昆布出汁で煮たんです」「ポン酢で食べる!」「はい、波瑠さんの好きなポン酢」「そう、このポン酢がおいしいのよね。味が濃くて柚子の味がちゃんとして」 二人は向き合って座り、鍋をつついた。「今日は土鍋をこれに使ったので、ごはんがないんです」「しめにうどん入れればいいと思うの」「そう言うと思って、用意してありま
「ただいま!」 がらがらと古い戸を開けると、「おかえりなさい、波瑠さん」と千颯が出迎えてくれた。 ああ、いつ見てもきれいな顔! それにうちに来てから、肌艶がよくなったみたい、と波瑠は思いながら「今日の晩ごはんは何?」と訊いた。 キャンディが波瑠の足元にすり寄ってきていて、それもかわいかった。「キャンディ、ただいま!」 千颯はキャンディを抱き上げると、にこりとして言う。 「今日は生姜焼きにしました。すぐに食べられますよ」 「きゃーん、生姜焼き! すぐ食べる!」 波瑠は自室に行き、スーツ
……なんか、いいにおいがする。 波瑠は自分のベッドで目を覚ました。 これ、ごはんの炊けるにおいだ。 ……ごはんの炊けるにおいなんて、久しぶり。――あれ? 波瑠はあることに気がついて、がばっと起きて、台所に行った。「波瑠さん」 台所では、千颯がおにぎりを作っているところだった。 「おにぎり……」 「あ、勝手にごめんなさい。……でも、僕お腹が空いて。で、波瑠さんもお腹が空いているかなって思って。台所を見たら、お米があったのでごはん炊いたんです」 「おにぎりは嬉しいよ。お腹空いたから。で
昨日波瑠は、会社の飲み会に参加していた。 そして、座席の隅の方で、ひっそりと飲んでいた。「黒岩課長! おめでとうございます!」 「生まれたのは、女の子ですよね?」 「三人目なんて、すごいなあ」 「奥さんと仲良しですよね。インスタ見ています!」 「奥さんも美人で、娘ちゃんたちもかわいいですよね」 「羨ましいなあ」 場の中心となっているところで、課長の黒岩が、皆に三人目の子どもが出来たことを祝福されていた。 波瑠は、顔を真っ赤にしてまなじりを下げている黒岩を横目で見ながら、次々に酒を飲んだ。飲み放題なので遠慮なく飲み続ける。「おめでとうございます!」と皆
「にゃー」 ……猫? うちに猫なんていたっけ? 波瑠は細く目を開けた。昨日、深酒をしてしまったので、身体がとてもだるい。 ほわほわの白と薄茶の毛並みで金茶の目をした猫が「みゃー」と小さく鳴きながら、とてとてと畳の上を歩いていた。 仔猫? 思わぬものが目に入り、細くしか開けていなかった目を、瞬きを一度してからはっきりと開けた。すると、そこはいつも眠っている寝室ではなかった。広い土間の玄関から入ってすぐの、使っていない和室だった。その畳の上に直に寝ていたのである。 ……昨日、こんなところで寝ちゃったんだ。ベッドにも行かず着替えもせず。暖房つけっぱなしで。……スー







